皆さん、こんにちは!英語の多様なアクセント、楽しんでいますか?
特にイギリス英語に触れていると、こんな不思議な体験をしたことはありませんか?
『”water” や “butter” の真ん中の T の音が、なんだか聞こえない…? 「ウォッアー」「バッアー」みたいに聞こえるけど…』
『”Don’t forget” の “Don’t” の最後の T が、プツッと途切れて消えたように感じる…』
『単語の終わりの /t/ が、舌を使わずに喉の奥で音を切っているように聞こえることがある…』
もし、あなたがこのように /t/ の音が消えたり、喉で詰まるように聞こえたりする現象に気づいているなら、それは「声門閉鎖音(せいもんへいさおん、Glottal Stop)」[ʔ] という音に出会っているのかもしれません。これは、特にイギリス英語(および一部のアメリカ英語方言)において、/t/ の音の代わりによく使われる特徴的な発音です。今回は、この少し変わった「音の止め方」について、詳しく解説していきます!
目次
- 声門閉鎖音 [ʔ] とは? – のどで音を止める?
- なぜ日本人には「音が消えた」ように聞こえるのか?
- どんな時に現れる? – イギリス英語の /t/ の代役
- 音節の終わり、特に子音の前 (
butter
,football
) - 単語の終わり (
cat
,that
) - /t/ + /n/ の組み合わせ (
button
,Britain
)
- 音節の終わり、特に子音の前 (
- アメリカ英語との比較 – フラップT vs 声門閉鎖音
- 日本人学習者が躓きやすいポイント
- 音が消えるため単語や境界を聞き逃す
- 発音の仕方が分からない
- 【気づき】非解放/t/ との声門閉鎖音 – 「止める」音のバリエーション
- 声門閉鎖音をマスターするためのトレーニング方法
- 喉で息を止める感覚を知る
- 意識的な聞き取り(特にイギリス英語)
- /t/ の代わりに [ʔ] を使って発音する練習
- まとめ
1. 声門閉鎖音 [ʔ] とは? – のどで音を止める?
声門閉鎖音 [ʔ] とは、喉の奥にある声帯(声門)を瞬間的にピタッと閉じることで空気の流れを完全に止め、破裂させずに(または非常に弱く)出す音のことです。記号 [ʔ] で表されます。
実は、この音は日本語にも無意識のうちに使われています。例えば、驚いたときの「あっ!」や「えっ?」と言うときの、最初の母音の前の詰まるような感じ(声門を閉じてから開く動作)や、言葉に詰まったときの「えーっと…」の「っ」の部分などが、この声門閉鎖音に近い感覚です。また、咳払いをする直前に喉で息をグッと止める感覚も似ています。
英語では、この [ʔ] が独立した音素(意味を区別する音)として扱われることは稀ですが、特定の環境、特にイギリス英語(コックニー、エスチュアリー英語、スコットランド英語など多くの方言・アクセント)で /t/ の音の異音(Allophone)として頻繁に出現します。
2. なぜ日本人には「音が消えた」ように聞こえるのか?
声門閉鎖音が日本人にとって聞き取りにくく、「音が消えた」ように感じられる理由は以下の通りです。
- 日本語の音体系にない: 日本語では、[ʔ] は独立した音としては認識されておらず、「っ」(促音)の一部や間投詞の一部として現れるため、意識的な音として捉えにくいです。
- /t/ の代替としての認識不足: 学校で習う英語では /t/ は [t] や tʰ として教わることが多く、[ʔ] という全く違う音で代替されることに慣れていません。
- 音が非常に短い・聞こえにくい: 声門閉鎖音は、息の破裂を伴わないため、非常に短く、音量も小さいため、聞き逃しやすいです。特に他の音に紛れると、まるで音が消えたかのように感じられます。
3. どんな時に現れる? – イギリス英語の /t/ の代役
声門閉鎖音 [ʔ] は、主にイギリス英語(および一部のアメリカ英語)において、以下のような環境で /t/ の代わりに現れることがあります。
3.1. 音節の終わり、特に子音の前
音節の終わりに来る /t/ が、次の音が子音の場合、[ʔ] に置き換わることがよくあります。
- butter /ˈbʌtə/ → /ˈbʌʔə/ (バッ[ʔ]アー)
- water /ˈwɔːtə/ → /ˈwɔːʔə/ (ウォー[ʔ]アー)
- football /ˈfʊtbɔːl/ → /ˈfʊʔbɔːl/ (フッ[ʔ]ボール)
- Scotland /ˈskɒtlənd/ → /ˈskɒʔlənd/ (スコッ[ʔ]ランド)
3.2. 単語の終わり
単語の最後の /t/ も、[ʔ] で発音されることがあります。これは、以前学んだ「非解放/t/ [t̚]」と似ていますが、[t̚] が舌先で息を止めるのに対し、[ʔ] は喉で息を止めます。
- cat /kæt/ → /kæʔ/ (キャッ[ʔ])
- that /ðæt/ → /ðæʔ/ (ザッ[ʔ])
- Don’t /doʊnt/ → /doʊnʔ/ (ドン[ʔ])
- get /ɡet/ → /ɡeʔ/ (ゲッ[ʔ])
3.3. /t/ + /n/ の組み合わせ
特に音節主音的 /n̩/ (Syllabic n) の直前の /t/ は、[ʔ] に置き換わることが非常に多いです。
- button /ˈbʌtn̩/ → /ˈbʌʔn̩/ (バッ[ʔン])
- Britain /ˈbrɪtn̩/ → /ˈbrɪʔn̩/ (ブリッ[ʔン])
- certain /ˈsɜːtn̩/ → /ˈsɜːʔn̩/ (サー[ʔン])
- important /ɪmˈpɔːtnt/ → /ɪmˈpɔːʔnʔ/ (インポー[ʔン[ʔ]) – 最後の/t/も[ʔ]になることがある
4. アメリカ英語との比較 – フラップT vs 声門閉鎖音
同じ /t/ でも、アメリカ英語とイギリス英語では異音の現れ方が異なることがあります。
例えば、母音に挟まれた /t/ (“water”, “butter”, “city”) は、
- アメリカ英語: フラップT [ɾ] になることが多い (ワラー, バラー, シリー)
- イギリス英語: 声門閉鎖音 [ʔ] になることが多い (ウォッアー, バッアー, シッイー)
ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、地域や個人差、話すスピードやスタイルによって異なります。また、アメリカ英語でも、例えば “button” の /t/ や語末の /t/ が [ʔ] になることもあります(特に若い世代などで)。
5. 日本人学習者が躓きやすいポイント
声門閉鎖音に慣れていないと、以下のような点で躓きやすくなります。
5.1. 音が消えるため単語や境界を聞き逃す
/t/ の音が [ʔ] に置き換わることで、音が聞こえないように感じ、単語そのものを認識できなかったり、単語の切れ目が分からなくなったりします。
5.2. 発音の仕方が分からない
[ʔ] の出し方が分からず、/t/ を発音すべき場面でどうすればよいか戸惑います。無理に [t] を発音すると、不自然に聞こえることがあります。
6. 【気づき】非解放/t/ との声門閉鎖音 – 「止める」音のバリエーション
これまでのシリーズで、私たちは「非解放/t/ [t̚]」という、語末などで /t/ の破裂が起こらない現象を学びました。今回の「声門閉鎖音 [ʔ]」も、/t/ の代わりに使われ、音が「止まる」という点では似ています。
この二つの違いについて考えてみると、面白い発見がありました。
- 非解放/t/ [t̚]: 舌先を上の歯茎につけて /t/ の構えを作り、そこで息を止める(舌先でブロック)。破裂させない。
- 声門閉鎖音 [ʔ]: 喉(声門)を閉じて息を止める。舌先の動きは関係ない(または非常に弱い)。
どちらも結果的に /t/ の破裂音が聞こえなくなる点で似ていますが、「どこで息を止めているか」が異なります。非解放/t/ が「舌で止める」なら、声門閉鎖音は「喉で止める」感覚です。
特にイギリス英語を聞いていると、語末の /t/ が [t̚] ではなく [ʔ] で発音されることがよくあります。”cat” が「キャッ[舌止め]」ではなく「キャッ[喉止め]」のように聞こえる感覚です。この「止める場所の違い」を意識できるようになると、英語の音のバリエーションに対する理解が深まり、リスニングや発音の精度がさらに向上するかもしれません。
7. 声門閉鎖音をマスターするためのトレーニング方法
声門閉鎖音は、意識すれば習得可能です。
7.1. 喉で息を止める感覚を知る
- 日本語で「あっ!」と短く驚いた時の、最初の「ア」の前の喉の詰まりを感じてみましょう。
- 英語の “uh-oh” (アッオー / ʌʔoʊ /) を発音してみてください。 “uh” と “oh” の間で、喉で一瞬息を止めているはずです。これが [ʔ] の感覚です。
7.2. 意識的な聞き取り(特にイギリス英語)
イギリス英語のドラマ、映画、ニュースなどを聞き、/t/ が発音されるべき箇所で音が消えたり詰まったりしていないか、注意深く聞いてみましょう。[ʔ] が使われている場所を特定する練習です。
7.3. /t/ の代わりに [ʔ] を使って発音する練習
“butter”, “football”, “cat”, “button” などの単語で、/t/ の代わりに喉で息を止める [ʔ] を使って発音する練習をします。
例: “butter” → /bʌ/ まで言い、喉を閉じて息を止め、すぐに /ə/ を続ける → /ˈbʌʔə/
8. まとめ
声門閉鎖音 [ʔ] は、特にイギリス英語において /t/ の異音として頻繁に現れる、喉で息を止める音です。日本語話者には音が消えたように聞こえがちですが、実際には声門を閉じるという動作が行われています。
この音の存在を知り、その特徴や出現パターンを理解することで、これまで聞き取れなかったイギリス英語のリスニングが向上する可能性があります。また、非解放/t/ [t̚] との違いを意識することで、より繊細な音の聞き分けや発音が可能になるでしょう。
少し変わった音ですが、ぜひチャレンジしてみてください!
▶その他の「日本人が苦手な英語発音パターン」シリーズの記事もぜひご覧ください:
- 日本人が苦手な英語発音パターン①: 弱形と強形
- 日本人が苦手な英語発音パターン②: 曖昧母音シュワー (Schwa)
- 日本人が苦手な英語発音パターン③: 子音クラスター
- 日本人が苦手な英語発音パターン④: 閉鎖音の解放/非解放
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑤: 音節主音的子音
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑥: 気息音化(アスピレーション)
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- 日本人が苦手な英語発音パターン⑧: 同化現象
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑨: イントネーションパターン
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑩: リエゾン (Linking R, Intrusive R)
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑪: リダクション (gonna, wannaなど)
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑫: 声門閉鎖音 (Glottal Stop)
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