皆さん、こんにちは!英語のリスニング、ネイティブの自然なスピードに慣れてきましたか?
英語を聞いていると、「あれ?」と思うような音の変化に遭遇することがありますよね。
『”water” が、どうしても「ウォーター」じゃなくて「ワラー」みたいに聞こえる…』
『”better” が「ベター」じゃなく「ベラー」に、”city” が「シティ」じゃなく「シリー」に聞こえるんだけど…?』
『同じ “t” のはずなのに、単語によって全然違う音に聞こえるのはなぜ?』
もし、あなたがこのように感じているなら、英語の「異音変化(いおんへんか)」、特にアメリカ英語でよく聞かれる「フラップT (Flap T)」という現象を捉えているのかもしれません!これは、同じ文字(音素)でも、文中での位置や環境によって発音が変わるという、英語の奥深い特徴の一つです。今回は、この不思議な音の変化について、フラップTを中心に詳しく見ていきましょう。
目次
- 異音(Allophone)とは? – 同じアルファベット、違う響き?
- なぜ日本人学習者には「別の音」に聞こえるのか?
- 代表格!アメリカ英語のフラップT (Flap T / Flap D)
- フラップTってどんな音?(日本語の「ラ行」との関係)
- どんな時にTやDが「ラ行」っぽくなる?(フラップTの出現条件)
- (補足)他にもある!知っておきたい異音の世界 (Dark Lなど)
- 日本人学習者が躓きやすいポイント
- フラップTの音を別の音(RやL)と勘違いする
- Tの音を聞き逃してしまう
- 自分で発音する時に常に「ター」「ティー」と発音してしまう
- 【体験談】「ワラー」「ベラー」を発音できたら、魔法のように聞き取れた!
- フラップTをマスターするためのトレーニング方法
- 舌で弾く感覚を掴む練習
- フラップTが現れる単語の聞き取り&発音練習
- ネイティブ音声(特にアメリカ英語)の模倣
- まとめ
1. 異音(Allophone)とは? – 同じアルファベット、違う響き?
まず、「異音(Allophone)」という少し専門的な言葉から説明しましょう。言語学では、意味を区別する最小の音の単位を「音素 (Phoneme)」と呼びます。例えば、英語の /t/ という音素は、”top” の /t/ も、”stop” の /t/ も、”water” の /t/ も、頭の中では同じ /t/ グループの仲間として認識されています。
しかし、実際に発音されるとき、この /t/ という音素は、置かれた環境(前後の音など)によって、微妙に、あるいは時には大きく異なる「実際の音」として現れます。 この、同じ音素グループに属する具体的な音のバリエーションのことを「異音(Allophone)」と呼びます。
前回の記事で学んだ /t/ の「気息音化 tʰ」や「非解放 t̚」も、実は /t/ の異音の一種です。そして今回注目する「フラップT [ɾ]」も、/t/ 音素が特定の環境で取る異音の一つなのです。つまり、同じ「T」の文字(/t/ 音素)でも、場面によって違う音(異音)で発音されている、ということです。
2. なぜ日本人学習者には「別の音」に聞こえるのか?
この異音変化が日本人にとって聞き取りにくかったり、混乱を招いたりする理由はいくつかあります。
- 日本語では異音変化が少ない: 日本語にも異音は存在しますが(例:「ん」の発音のバリエーション)、英語ほど一つの音素が劇的に違う音に変化することは比較的少ないため、その概念に慣れていません。
- アルファベットと音の一対一対応への期待: アルファベットの「T」は常に「タ行」の音だ、と思い込んでいると、[ɾ] のような全く違う音で発音されたときに戸惑います。
- カタカナ表記の限界: “water” を「ウォーター」、”better” を「ベター」というカタカナで覚えていると、実際の [ɾ] の音とのギャップに気づきにくい、または受け入れがたいと感じてしまいます。
3. 代表格!アメリカ英語のフラップT (Flap T / Flap D)
数ある異音の中でも、特にアメリカ英語の会話で頻繁に現れ、日本人学習者が「あれ?」となりやすいのが「フラップT」です。(同様の現象は /d/ でも起こるため Flap D とも呼ばれますが、ここではまとめてフラップTとして扱います。)
3.1. フラップTってどんな音?(日本語の「ラ行」との関係)
フラップT [ɾ] は、舌先で上の歯茎あたりを非常に素早く「ポンッ」と弾いて出す音です。この音、実は日本語の「ラ・リ・ル・レ・ロ」を発音するときの舌の動きや音に非常に近いです! 特に、「空(そら)」の「ラ」や、「鳥(とり)」の「リ」のような、弾く感じのラ行の音をイメージすると分かりやすいでしょう。
ただし、英語の /r/ (舌を巻く音) や /l/ (舌先を歯茎につけ、両脇から息を出す音) とは全く異なる音なので、混同しないように注意が必要です。
3.2. どんな時にTやDが「ラ行」っぽくなる?(フラップTの出現条件)
フラップTは、主にアメリカ英語において、以下の条件が揃ったときに現れやすいです。
- /t/ または /d/ の音が、母音(またはR音)に挟まれている
- その /t/ または /d/ の直後の音節に、強いストレス(アクセント)がない
例を見てみましょう。(太字がフラップT [ɾ] になりやすい箇所)
- water /ˈwɔːɾɚ/
- better /ˈbɛɾɚ/
- city /ˈsɪɾi/
- beautiful /ˈbjuːɾɪfl/
- party /ˈpɑːrɾi/
- thirty /ˈθɜːrɾi/
- ladder /ˈlæɾɚ/ (/d/の場合)
- medal /ˈmɛɾl/ (/d/の場合)
- get it /ɡɛɾ ɪɾ/ (単語間でも起こる!)
- put it on /pʊɾ ɪɾ ɔːn/
※イギリス英語では、これらの単語の /t/ は通常 [t] として発音されることが多いです。
4. (補足)他にもある!知っておきたい異音の世界 (Dark Lなど)
フラップT以外にも、英語には様々な異音が存在します。例えば、/l/ の音も、単語の最初に来る時 (“light”) と、最後に来る時 (“feel“, “bottle”) では、舌の形や響きが微妙に異なります。後者は「Dark L [ɫ]」と呼ばれ、舌の後ろの方が少し持ち上がり、「ウ」のような響きを伴うことがあります。これも異音の一例です。
5. 日本人学習者が躓きやすいポイント
異音変化、特にフラップTに慣れていないと、次のような点で躓きがちです。
5.1. フラップTの音を別の音(RやL)と勘違いする
日本語のラ行に近い音のため、英語の /r/ や /l/ と混同してしまい、単語を聞き間違えたり、発音を間違えたりします。
5.2. Tの音を聞き逃してしまう
[ɾ] は非常に素早い音なので、注意していないと /t/ の音がそこにあったことに気づかず、単語を聞き取れないことがあります。
5.3. 自分で発音する時に常に「ター」「ティー」と発音してしまう
フラップTになるべき場面でも、律儀に [t] や [tʰ] の音で発音してしまうと、特にアメリカ英語話者には少し硬く、不自然に聞こえることがあります。
6. 【体験談】「ワラー」「ベラー」を発音できたら、魔法のように聞き取れた!
ここで、この記事の作成をお願いした私の経験をお話しさせてください。
まさに今回のテーマである「Waterがワラーに聞こえる」「Betterがベラーに聞こえる」という現象は、私が長年不思議に思っていたことでした。リスニング教材を聞いても、映画を見ても、どうしても T の音がラ行のように聞こえる。最初は自分の耳がおかしいのかと思ったほどです。
しかし、英語の発音を学び直し、フラップT [ɾ] という異音の存在を知り、そして自分で “Water” を「ワラー」っぽく、”Better” を「ベラー」っぽく発音する練習を始めたとき、驚くべきことが起こりました。あれだけ聞き取れなかったネイティブのフラップTの音が、まるで魔法が解けたかのように、はっきりと、そして自然に耳に入ってくるようになったのです!
この経験を通して、改めて「発音できる音は聞き取れる」という原則を痛感しました。自分がその音を出すための口や舌の動きを知り、実際に音を出せるようになると、脳がその音のパターンを認識しやすくなるのでしょう。聞き取れないからとリスニングばかりを繰り返すのではなく、時には発音練習に立ち返り、自分でその音を出せるようにすることが、結果的にリスニング力向上への近道になるのだと実感しました。本当に不思議なものです。
7. フラップTをマスターするためのトレーニング方法
フラップTは、意識して練習すれば必ず身につけることができます。
7.1. 舌で弾く感覚を掴む練習
まずは、日本語の「ラリルレロ」を言う時の舌の動きを意識します。舌先が上の歯茎あたりを軽く「ポンッ」と弾く感覚です。この動きを使って、ɾə を繰り返し発音してみましょう。
7.2. フラップTが現れる単語の聞き取り&発音練習
“water”, “better”, “city”, “party” など、フラップTが現れる単語をネイティブ音声(特にアメリカ英語)で注意深く聞き、[ɾ] の音を確認します。その後、自分でも日本語のラ行を意識しながら真似て発音してみましょう。
比較として、”attack” /əˈtæk/ (アクセントが直後にあるのでフラップしない), “button” /ˈbʌtn̩/ (音節主音的nの前なのでフラップしないことが多い) など、フラップしない単語との違いを聞き比べるのも有効です。
7.3. ネイティブ音声(特にアメリカ英語)の模倣
映画やドラマ、YouTubeなどでアメリカ英語話者の会話を聞き、フラップTが使われている箇所を意識的に真似る(シャドーイング)のが効果的です。
8. まとめ
異音変化、特にアメリカ英語のフラップT [ɾ] は、一見すると奇妙な音の変化に思えるかもしれませんが、英語の自然なリズムと流暢さを生み出す上で非常に重要な役割を果たしています。同じ /t/ という音素が、環境によって気息を伴ったり([tʰ])、息が止まったり([t̚])、そして時には日本語のラ行のように弾かれたり([ɾ])するのです。
このフラップTを理解し、自分でも使えるようになると、リスニングで戸惑うことが減るだけでなく、あなたのスピーキングもよりネイティブらしく、スムーズに聞こえるようになります。「Waterがワラーに聞こえる謎」が解ければ、英語の世界がまた一段とクリアに見えてくるはずです!
▶その他の「日本人が苦手な英語発音パターン」シリーズの記事もぜひご覧ください:
- 日本人が苦手な英語発音パターン①: 弱形と強形
- 日本人が苦手な英語発音パターン②: 曖昧母音シュワー (Schwa)
- 日本人が苦手な英語発音パターン③: 子音クラスター
- 日本人が苦手な英語発音パターン④: 閉鎖音の解放/非解放
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑤: 音節主音的子音
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑥: 気息音化(アスピレーション)
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑦: 異音変化(フラップTなど)
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑧: 同化現象
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑨: イントネーションパターン
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑩: リエゾン (Linking R, Intrusive R)
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑪: リダクション (gonna, wannaなど)
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑫: 声門閉鎖音 (Glottal Stop)
- 日本人が苦手な英語発音パターン:総まとめ
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