英語のリスニングをしていると、本来あるはずの音が聞こえない、または、非常に弱くしか聞こえない、という経験はありませんか?それは、「脱落(リダクション)」と呼ばれる現象のせいかもしれません。
「脱落」とは、英語特有の音声変化の一つで、特定の音が発音されなかったり、非常に弱く発音されたりする現象のことです。この「脱落」を理解し、聞き取るためのポイントを押さえることが、英語リスニング上達への大きな一歩となります。
この記事では、そんな「脱落」に焦点を当て、その基本ルールから、日本人が苦手とするパターン、効果的なトレーニング方法まで、徹底的に解説していきます。この記事を読めば、あなたも「脱落」をマスターし、今まで以上にクリアに英語を聞き取れるようになるはずです!
1. 「脱落(リダクション)」って何?なぜ、英語の音は「消える」のか?
「脱落(リダクション)」とは、簡単に言うと、会話の中で特定の音が発音されなかったり、非常に弱く発音されたりする現象のことです。主に、語尾の子音や、文中の弱い音節で起こります。
例えば、"I don't know." というフレーズは、ネイティブスピーカーが発音すると、「アイ ドン ノウ」ではなく、「アイ ドゥノウ」のように、"don't" の "t" の音がほとんど聞こえません。
これは、「脱落」が起こっているためです。
1.1 なぜ「脱落」は起こるのか?英語の「スムーズさ」への追求
では、なぜ「脱落」は起こるのでしょうか?その理由は、英語をよりスムーズに、より自然に発音するためです。
英語は、日本語に比べて、音の強弱やリズムがはっきりしている言語です。また、単語と単語をはっきりと区切って発音するのではなく、音がつながったり、変化したりして、まるで一つの長い単語のように発音されることがよくあります。
このような英語の「スムーズさ」を追求する中で、特定の子音が発音されなかったり、非常に弱く発音されたりする「脱落」という現象が起こるのです。
1.2 「脱落」を学ぶメリット:ネイティブ英語の「聞こえない音」が聞こえるようになる!
「脱落」を学ぶことで、あなたの英語リスニングには、どのような変化が起こるのでしょうか?ここでは、具体的なメリットを2つご紹介します。
- メリット1:ネイティブスピーカーの自然な会話が、より正確に聞き取れるようになる
「脱落」を理解することで、今まで聞き取れなかった「聞こえない音」が、はっきりと聞こえるようになります。その結果、ネイティブスピーカーの自然な会話を、より正確に、より詳細に理解できるようになるでしょう。 - メリット2:リスニング力だけでなく、スピーキング力も向上する
「脱落」を意識して発音練習をすることで、より自然で、流暢な英語を話せるようになります。ネイティブスピーカーにも、あなたの英語が、より正確に伝わるようになるでしょう。
2. これだけは覚えよう!「脱落」が起こりやすい5つのパターン
「脱落」は、様々な場面で起こりますが、特に起こりやすいパターンがいくつか存在します。ここでは、代表的な5つのパターンを、例文と合わせてご紹介します。
2.1 語尾の /t/ /d/ の脱落:後ろに子音が続く場合
最もよくあるのが、語尾の /t/ /d/ が脱落するパターンです。後ろに子音が続く場合に、/t/ /d/ はほとんど発音されません。
- I don't know. (アイ ドゥノウ)
- We went there. (ウィー ウェン ゼア)
- And you? (アン ユー?)
- I like that book. (アイ ライ カッ ブック)
- He told me. (ヒー トウ ミー)
これらの文では、"don't" の "t"、"went" の "t"、"and" の "d"、"that" の"t"、"told"の"d"は、ほとんど聞こえません。
ただし、「音が消える」と言っても、完全に音がなくなるわけではなく、実際には非常に弱く、短い音として残っていることが多いです。
2.2 語尾の /p/ /k/ /b/ /g/ の脱落:後ろに子音が続く場合
/t/ /d/ だけでなく、語尾の /p/ /k/ /b/ /g/ も、後ろに子音が続く場合に、脱落することがあります。
- stop that (ストッ ッゼァ)
- look here (ルッ ヒア)
- job hunting (ジョッ ハンティング)
- dog show (ドッ ショウ)
これらの例では、"p","k","b","g" は非常に弱く、ほとんど聞こえません。
2.3 語中の /t/ /d/ の脱落:前後の音が強い場合
/t/ /d/ は、語尾だけでなく、語中でも脱落することがあります。特に、/t/ /d/ の前後の音が強く発音される場合に、脱落が起こりやすくなります。
- perfectly (パーフェクリィ)
- coldness (コウルネス)
これらの例では、"t" と "d"は、ほとんど聞こえません。
2.4 /h/ の脱落:語頭以外で、直前の音が強い場合
/h/ は、語頭でははっきりと発音されますが、語頭以外では、脱落することがあります。特に、/h/ の直前の音が強く発音される場合に、脱落が起こりやすくなります。
- ask her (アスキァー)
- tell him (テリム)
これらの例では、"h"は、ほとんど聞こえません。
2.5 弱形の中の母音の脱落:発音されない母音がある
弱形の中には、母音がほとんど発音されず、子音だけが聞こえるものがあります。
- to (タ) (tə)
- for (ファ) (fə)
- the (ダ) (ðə)
これらの例では、母音は、ほとんど聞こえません。
3. ここが落とし穴!日本人学習者が間違えやすい「脱落」パターン
基本パターンを覚えたら、次は、日本人が間違えやすい「脱落」のパターンを学習しましょう。ここでは、特に注意すべきポイントを、詳しく解説します。
3.1 「脱落」と「リンキング」の組み合わせ:音がつながると、さらに聞こえにくい
「脱落」は、しばしば「リンキング」と組み合わせて起こります。音がつながり、さらに音が脱落することで、非常に聞き取りにくくなることがあります。
- I've got to go. (アィヴ ガラ ゴゥ) "got" の "t" が脱落し、"to" とリンキング
- I went to the store. (アイ ウェン タ ザ ストア) "went" の "t" が脱落し、"to" とリンキング
- I'll ask her about it. (アィル アスキァ アバウティット) "ask" の "k" が弱くなり、"her" の "h" が脱落
3.2 語尾の /t/ /d/ の脱落:後ろに母音が続いても脱落する場合がある
語尾の /t/ /d/ は、後ろに子音が続く場合に脱落しやすいですが、後ろに母音が続いても脱落することがあります。特に、/t/ /d/ の直前の音が強く、直後の母音が弱い場合に、脱落が起こりやすくなります。
- I don't understand it. (アイ ドゥノ アンダスタンディット)
- He did it again. (ヒ ディリッ アゲイン)
3.3 「脱落」を聞き取るためのヒント:文脈から推測する
「脱落」が起こると、音が聞こえなくなるため、聞き取りが難しくなります。しかし、文脈から推測することで、脱落した音を補うことができます。
例えば、"I don' know." というフレーズでは、"don't" の "t" が脱落して、「アイ ドゥノウ」のように聞こえます。しかし、文法的に "I don' know." はあり得ないため、"don't" の "t" が脱落していると推測できます。
4. 「脱落耳」を鍛える!効果的な4つのトレーニング方法
それでは、最後に、「脱落」を聞き取るための、効果的なトレーニング方法をご紹介します。上で紹介した「基本パターン」と「間違えやすいパターン」を意識しながら、次の4つのステップで、「脱落耳」を鍛えていきましょう!
4.1 ステップ1:「脱落」を知る!意識して聞くことから始めよう
まずは、「脱落」という現象を「知る」ことが重要です。今まで何気なく聞き流していた英語音声の中に、「脱落」がたくさん含まれていることに気づくはずです。
最初は、ゆっくり、はっきり発音された音声を使って、「脱落」がどこで起こっているのか、意識して聞く練習をしましょう。英語学習者向けの教材に付属している音声は、脱落が起こる頻度が少ないため、初心者の方には聞き取りやすいでしょう。
4.2 ステップ2:聞き取り練習:「聞こえない音」に集中する
「脱落」の存在に気づいたら、次は、「聞こえない音」に集中して、聞き取り練習をしましょう。例えば、"I don't know." なら、「ドン」の後の「トゥ」、「ノウ」の前の「トゥ」の音が、どのように聞こえるか、意識して聞いてみましょう。
最初は、何度も繰り返し聞いて、音を確認することが大切です。多くのオンライン辞書で、単語やフレーズの発音を、繰り返し再生できる機能が備わっています。これを活用するのも良いでしょう。
4.3 ステップ3:音読で再現!「脱落」を自分のものにする
音声を聞くだけでなく、声に出して、発音練習(音読)をしましょう。自分で発音することで、「脱落」の感覚をつかむことができます。この時、上手く発音できなくても、問題ありません。まずは英語を話す、ということ自体に慣れることが重要です。
音読する際には、「脱落」だけでなく、英語特有の「強弱」や「リズム」を意識することが大切です。脱落が起こる音は弱く、短く、それ以外の音は強く、はっきりと発音することを心がけましょう。
4.4 ステップ4:シャドーイングで仕上げ!「脱落」を聞き取る力を磨く
英語の音声を聞き、それを真似して発音する「シャドーイング」は、「脱落」を聞き取る力を磨くのに、非常に効果的なトレーニング方法です。特に、「脱落」が起こりやすい語尾の子音や、文中の弱い音節を、意識して真似するようにしましょう。
最初は、短いフレーズから始め、慣れてきたら、徐々に長い文に挑戦していくと良いでしょう。また、自分のレベルに合った、適切なスピードの音声を選ぶことも大切です。
5. まとめ:「脱落」マスターで、あなたのリスニングはもっと自然に!
「脱落」は、英語のリスニング力を向上させるための、重要なポイントです。最初は難しく感じるかもしれませんが、基本のパターンを覚えて、繰り返し練習すれば、必ず聞き取れるようになります。
そして、「脱落」をマスターすれば、あなたの英語の世界は、もっとクリアに、もっと鮮やかに広がっていくはずです!ネイティブスピーカーの自然な会話を聞き取り、自信を持ってコミュニケーションできるようになるでしょう。
【脱落音ヒアリング練習】
<英語例文>
Look, we gotta talk about the profit report, right? It's not lookin' too good. Last year's figures were better, but costs have gone up, and sales have dropped a bit. And you know, market conditions haven't exactly been favorable. That project we started, it didn't really take off as expected. We thought it'd bring in a lot, but, truth be told, it's cost us. The fact is, we've spent a lot on that new marketing campaign, and I don't think it's worked out. Next time, we need to think twice about those kind of investments. And maybe, just maybe, we should have listened to those reports from last month. We need to cut costs, and we need to do it fast. And, look, we've got to be smart about it. It's a tough market out there, but I'm sure we can sort it out. We should start by analyzing what went wrong. It's important that we don't make the same mistakes again. Next quarter has got to be better, right? We've got a great team here, and I know we can turn things around. What do you think?
<音声>
<日本語訳>
いいね、利益報告について話さなければならないね。あまり良くないね。昨年の数字は良かったけど、コストが上がっていて、売上は少し落ちている。それに、市場の状況もあまり良くない。始めたあのプロジェクトは、期待したほどにはうまくいかなかった。たくさん利益をもたらすと思っていたけど、正直なところ、コストがかかった。実際、あの新しいマーケティングキャンペーンに多くを費やしたけど、うまくいったとは思えない。次回は、ああいった投資についてよく考える必要がある。そして、おそらく、先月の報告書に耳を傾けるべきだったかもしれない。コストを削減する必要がある、そして早く。それから、賢くやらなければならない。厳しい市場だけど、きっとうまくやれる。何が悪かったのか分析することから始めるべきだ。同じ間違いを繰り返さないことが重要だ。次の四半期はもっと良くならなければならないね。素晴らしいチームがいるんだから、状況を好転させることができると確信しているよ。どう思う?
<高校生レベル以上の単語>
- gotta (= have got to, must)(〜しなければならない)
- 例文: We gotta finish this project by tomorrow. (この企画は明日までに終わらせなければなりません)
- figure (数字、数値)
- 例文: The sales figures for this month look promising. (今月の売上数字は有望に見えます)
- favorable (好ましい、有利な)
- 例文: The weather conditions were favorable for the outdoor event. (天候は野外イベントに好ましい状態でした)
- take off (離陸する、成功する、人気が出る)
- 例文: Their new product really took off in the Asian market. (彼らの新製品はアジア市場で本当に成功しました)
- truth be told (実を言うと、正直なところ)
- 例文: Truth be told, I wasn't prepared for the presentation. (正直なところ、私はプレゼンの準備ができていませんでした)
- think twice (よく考え直す、慎重に考える)
- 例文: You should think twice before making such a big decision. (そのような大きな決断をする前によく考え直すべきです)
- sort out (解決する、整理する)
- 例文: We need to sort out these problems before they get worse. (これらの問題が悪化する前に解決する必要があります)
- turn things around (状況を好転させる)
- 例文: The new CEO managed to turn things around for the struggling company. (新しいCEOは苦戦している会社の状況を好転させることができました)
また、このテキストには以下のようなビジネス用語も含まれています:
- profit report (収益報告)
- market conditions (市場状況)
- marketing campaign (マーケティングキャンペーン)
- investments (投資)
- cut costs (コストを削減する)
- next quarter (次の四半期)