皆さん、こんにちは!英語学習、楽しんでいますか?
リスニングをしている時やネイティブと話している時に、こんな風に感じたことはありませんか?
『単語の最後の音が、なんだかプツッと途切れて聞こえない…?』
『”stop talking!” の “stop” の /p/ の音が聞こえない気がする…』
『”good job” の “good” の /d/ はどこに行ったの?』
もしそう感じているなら、それは英語の「閉鎖音の非解放」という現象に出会っているサインかもしれません。これは、特定の条件下で閉鎖音(/p/, /t/, /k/, /b/, /d/, /g/)の最後の破裂音が発音されない、または非常に弱くなる現象です。今回は、日本人学習者が戸惑いやすいこの発音パターンについて、詳しく見ていきましょう!
1. 閉鎖音の「解放」と「非解放」とは?
まず、「閉鎖音(Stop Consonants / Plosives)」とは、息の流れを口の中で一度完全にせき止めてから、その閉鎖を開放することで「破裂」させて出す音のことです。英語には以下の6つの閉鎖音があります。
- 無声音: /p/, /t/, /k/ (息だけで作る音)
- 有声音: /b/, /d/, /g/ (声帯を震わせる音)
「解放 (Released)」 とは、この閉鎖音の最後の「破裂」の部分 (息の破裂や声の破裂) がはっきりと発音されることです。例えば、”pea” /piː/, “tea” /tiː/, “key” /kiː/ のように、単語の最初に来る場合や、母音の前などでは基本的に解放されます。日本語の「カップ」「カット」「キック」の最後の音も、この解放された音に近いと言えます。
一方、「非解放 (Unreleased)」 とは、息の流れをせき止めるまでは同じですが、その後の破裂を伴わずに音が終わることです。息が「プッ」「トゥッ」「クッ」と外に出ないため、音が途中で止まったように、あるいは聞こえないように感じられます。
非解放は特に以下のような場合に起こりやすくなります。
- 単語の終わり (語末): 特に文末に来るとき。 (例: “stop“, “cat“, “book“)
- 次に来る音が別の閉鎖音や子音のとき: (例: “laptop”, “backpack”, “good job”)
2. なぜ日本人学習者にとって難しいのか?
日本人学習者が非解放閉鎖音を難しく感じる主な理由は以下の通りです。
- 日本語では閉鎖音は基本的に解放される: 日本語で「っ」(促音) として現れる場合を除き、語末に来る「プ」「ト」「ク」などは、比較的はっきりと息の破裂を伴って発音されることが多いです (例: カップ、バット、ブック)。そのため、破裂しない音に慣れていません。
- 「音が聞こえない」ことへの戸惑い: はっきりと発音されない音があると、聞き逃してしまったり、その単語自体を認識できなかったりします。
- 発音時に無理に解放してしまう: 聞こえないのが不安で、語末の /p/, /t/, /k/ を「プ」「ト」「ク」と、母音 /u/ を付けてまで発音してしまうことがあります。
3. 日常会話でよく見られる「非解放」閉鎖音の例
具体的にどのような場面で非解放が起こるか見てみましょう。([
]
で囲まれた音が非解放になることが多い箇所です)
3.1. 単語の終わり (語末) での非解放
- “Could you sto[p]?” (ストップ、ではなく、息を止める感じで「ストッ」)
- “Look at that ca[t].” (キャット、ではなく、「キャッ」)
- “I need that boo[k].” (ブック、ではなく、「ブッ(ク)」)
- “He has a do[g].” (ドッグ、ではなく、「ドッ(グ)」)
- “It’s a goo[d] idea.” (グッド、ではなく、「グッ(ド)」)
3.2. 次に来る子音の前での非解放
- “la[p]top” (ラップトップ → ラッ(プ)トップ)
- “foo[t]ball” (フットボール → フッ(ト)ボール)
- “ba[ck]pack” (バックパック → バッ(ク)パック)
- “a[b]solutely” (アブソルートリー → ア(ブ)ソルートリー)
- “mi[d]night” (ミッドナイト → ミッ(ド)ナイト)
- “bi[g] game” (ビッグゲーム → ビッ(グ)ゲーム)
このように、特に閉鎖音が連続する場合や、閉鎖音の後に別の子音が続く場合に、前の閉鎖音は非解放になることが非常に多いです。
4. 日本人学習者が躓きやすいポイント
非解放閉鎖音に慣れていないと、以下のような点で躓きがちです。
4.1. 聞こえない音を無理に発音しようとする
“stop” を「ストップゥ」のように、無意識に母音 /u/ を足して、無理やり解放音として発音してしまう。これはネイティブには不自然に聞こえます。
4.2. 音が聞こえないため単語を聞き逃す
非解放の音は非常に弱いか、ほぼ聞こえないため、その単語自体を認識できなかったり、別の単語と勘違いしたりすることがあります。
5. 【体験談】音が「消える」のではなく「発音されていない」感覚と「洗濯機」の発見
ここで、私の最近の気づきをお話しさせてください。
これまで非解放閉鎖音は「音が消えるように聞こえる」と説明されることが多かったのですが、私自身、英語学習を進める中で、少し違う感覚を持つようになりました。それは、単に「消える」というより、「意図的に(破裂の部分を)発音していない」 という感覚です。口や舌の形は /p/ や /t/, /k/ を作る位置にあるけれど、最後の息の破裂だけを省略している、そんなイメージです。頭の中では /p/ や /t/, /k/ を言っているつもりでも、物理的な破裂音としては表出させていない、という感覚に近いかもしれません。
この感覚が腑に落ちたきっかけが、先日、英語学習アプリ Abceed での学習中に先生が話していたことでした。その先生は、「日本語の『洗濯機』という言葉を、日本人は決して『せ・ん・た・く・き』とはっきり発音していませんよね?たいてい『せん・たっ・き』と発音していて、『く /ku/』の音ではなくなっています」 と説明していました。
これを聞いて、ハッとしました!確かに「せんたっき」の「たっ」の部分は、/k/ の音を作るために舌の後ろを一旦持ち上げる動き(閉鎖)はしているものの、/k/ としての破裂は起こらず、すぐに次の /k/ (き) の準備に移っています。これは、まさに英語の非解放閉鎖音、特に /k/ の後に別の子音が続く場合の状況と非常によく似ています!
子供の頃なら感覚的に外国語の音を習得できるかもしれませんが、大人になってからはそうはいきません。しかし、このように日本語の身近な例と比較したり、発音の仕組みを「理屈」で理解したりすることで、これまで掴みどころのなかった英語の音の感覚が、ストンと頭に入ってくることがあるのだと実感しました。非解放閉鎖音も、「破裂させないだけなんだ」と理屈で分かれば、練習しやすくなります。
6. 非解放閉鎖音をマスターするためのトレーニング方法
非解放閉鎖音は、意識的な練習で必ず習得できます。
6.1. 「息を止める」感覚を掴む練習
まず、/p/, /t/, /k/ の口や舌の形を作った状態で、息を出す直前で「ピタッ」と止める練習をします。
例:
- /p/: 唇を閉じて息を止め、破裂させない。
- /t/: 舌先を歯茎につけて息を止め、破裂させない。
- /k/: 舌の後ろを上あごにつけて息を止め、破裂させない。
この「止める」感覚を掴んだら、”stop”, “cat”, “book” などの単語の最後で実践してみましょう。
6.2. 非解放を意識した聞き取り練習 (ディクテーション・シャドーイング)
ネイティブの音声を聞き、「ここは非解放になっているな」と意識しながら聞く練習をします。ディクテーションで書き取れなかった音が非解放閉鎖音だった、ということもよくあります。シャドーイングでも、非解放の部分をしっかり真似るように意識しましょう。
6.3. ミニマルペアでの比較練習
非解放と解放で意味が変わるペアは少ないですが、例えば以下のようなペアで音の違いを意識するのは有効です。
- “cab” /kæb/ (語末の/b/を非解放気味に) vs “cap” /kæp/ (語末の/p/を非解放気味に)
- 単語の終わりで解放した場合としない場合の発音を自分で比べてみる。(例: “cat” を「キャットゥ」と解放して発音するのと、「キャッ」と非解放で発音するのを比較)
7. まとめ
閉鎖音の非解放は、英語の流暢さや自然なリズムを作り出す上で非常に重要な要素です。最初は「音が聞こえない」「どう発音すればいいか分からない」と戸惑うかもしれませんが、「破裂させないだけ」という理屈を理解し、意識的に練習することで、必ず聞き取れるようになり、自然に発音できるようになります。
日本語の「洗濯機」の例のように、身近な言語現象との比較も理解の助けになります。諦めずに、少しずつ非解放閉鎖音の感覚を掴んでいきましょう!
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- 日本人が苦手な英語発音パターン①: 弱形と強形
- 日本人が苦手な英語発音パターン②: 曖昧母音シュワー (Schwa)
- 日本人が苦手な英語発音パターン③: 子音クラスター
- 日本人が苦手な英語発音パターン④: 閉鎖音の解放/非解放
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑤: 音節主音的子音
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑥: 気息音化(アスピレーション)
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- 日本人が苦手な英語発音パターン⑧: 同化現象
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑨: イントネーションパターン
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑩: リエゾン (Linking R, Intrusive R)
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑪: リダクション (gonna, wannaなど)
- 日本人が苦手な英語発音パターン⑫: 声門閉鎖音 (Glottal Stop)
- 日本人が苦手な英語発音パターン:総まとめ
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